降水確率40% 

最近の天気予報は当たらない。今日は晴れ後曇りのはずが昼過ぎには雨が…重い空
気が流れる中にポツリと残されたボクの影。

  お昼ご飯はまだ食べていない、起きて間がないボサボサ頭を直すのが面倒だ。とり
あえずお茶でも沸かそうと蛇口をひねる。手に触れる水が心地いい、もう夏は近い。
来週末には梅雨が明けて夏が来る。

  やかんに水を入れてコンロにかけた。六畳一間と二畳ほどのキッチン、ユニットバ
ス。嘘でも広いと言えないけど十分な広さだった。その辺に脱ぎ捨てられた服を洗濯
機へ。

 いつも変わらない時間が流れるこの空間から抜け出したい

何度もそう思った。その一歩にボクは、毎日部屋の掃除をしようと決めた。でも何か
違う。どうにもならない時間の流れ…。

 沸騰したやかんの火を止めティーパックを放り込んだ。今日は学校も休み、バイト
も休み、予定がないのは結構退屈、これがいつもと違う時間の流れ?もしそうならい
つもの流れでもいいと少しだけ思った。



 【駅に来いよ…まだ寝てたらゴメンナι】大学に入ってからの友達からメールが来
た。退屈な時間を埋めるためとは言え、雨の中出かけるのがメンドーに思えた。【お
前が来い】そう一言送り返した。30秒もしない内に携帯電話が鳴り出した。ヨシから
だ。

「ハイ」と出ようと電話を耳に当てた瞬間――お前が来い!と声が聞こえた。

「雨が降ってるし駅まで来てるんならお前が来いよ」

「雨?降ってないよ!」

 言われてカーテンを開けて見た。

「あ………」

「よかったら来て、歌ってるから」

 ヨシはそう言って電話を切った。



 ボクは小学6年生のとき初めてギターを買った。高校に入ってストリートライブを
したりした。丁度ニ年ぐらい人前では歌っていない…なんて考えてみた。大学へ入り
たいと強く思ったわけではないが、受験勉強のためと称して人前で歌うことをやめ
た。ヨシが路上で歌っているのは一度しか見たことがなかったけど、その彼の姿を見
て『歌いたい』と思った。

 

 人波の中 時が止まった空間 遠くまで届けと声を投げた



 寝癖頭をなんとか直し家を出た。濡れた道が乾き始めていて、夜には月が見えそう
な天気だ…そんな事を考えている裏側で、色んな事を考えていた。考えすぎて何に悩
んでいるのか分からなくなった。溜め息を吐いてタバコをくわえた。悩んだ末、悩ん
でも仕方がないという結論に達した。が、気持ちはスッキリしなかった。

 タバコの変わりに鼻歌を歌ってみたけどパッとしない。そんな感じで駅まで来たけ
どヨシに発見される前に帰と思ったのに、ヨシの声に引き寄せられてしまった。

 彼の周りには数人のお客さんがいた。歌い終わると足元に置いてあったペットボト
ルに入った水を飲み、「寝てると思ってた」と言った。呼び出しときながら何だよそ
れ。

 足でリズムを刻みながらギターを鳴らし歌い始めた。彼を取り巻く数人の聴衆は
じっと彼を見つめてその世界に引き込まれて行く。ボクの中から何かが込上げてき
て、涙は出そうにないけれど、泣きそうな感じになった。

 夢を探して歩いたけど 夢なんてどこにも無かった それでも探して歩いている

 

「10分休憩!!」歌い終わって一礼したヨシが言った。そして僕の肩をポンと叩き
「トイレ行ってくるわ」と言って行った。彼の周りにいた『数人のお客さん』が少し
減った。常連客であろう残りのコは携帯電話を触ったりしていでいた。一応言ってお
くが、ここは駅前のロータリーだ。

 置き去りにされたヨシのアコースティックギターを手に取った。コードを押さえて
ストロークした。チューニングがずれていた。『お客さん』は顔を上げた。このまま
ギターを置いて去るにも去れない気がした。

 なんとなく…そう、なんとなくギターを掻き鳴らした。その曲はボクが3番目ぐら
いに作った曲だった。雨が好きだけどやっぱり嫌い、犬の散歩に行けないから、雨が
続いて犬は歩くことを忘れて、食べることも忘れて、起きることすら忘れて―最後に
は死んでしまう。という内容の歌だった。

 別に、この曲でなくてもよかったのだけれど、何もしないで生きている自分がこの
ままだとこの犬のみたいに、大好きなことを忘れて消えてしまう気がして、それを吹
き飛ばす様に歌った。

 

 ヨシが戻って来るのに気付いた。驚きながら笑っている。ボクは合った目を愛想笑
いもしないで無理やり逸らせた。曲は終わったけどいくつかのコードを鳴らしてから
「チューニングずれてたぞ」とヨシに言ってギターを渡した。

 

「今日は早いけどあと2曲で終わり」ヨシがそう言うと『お客さん』は残念そうにし
た。

  ラスト一曲、ヨシは指でオレを呼び「お前弾けっ」と、笑いながらそう言った。
ギターを俺に渡し、カバンの中から楽譜を取り出した。

「辞めた。コータが歌え」

「歌えって何を?」

答えを返さないままイントロを弾き出した。

 ヨシと話をするきっかけになった曲だった。よくある話しだが、CDショップでその
曲を手に取っていたのを見たらしく、次の日、大学でオレに話し掛けてきたのだ。始
めは慣れないカップルみたいな会話やメールの内容だったけどすぐに打ち解けた。ス
トリートをしていると知ったのは半年位前、バイトの帰り寒いからあったかいコー
ヒーでも買って帰ろうと駅に立ち寄ったときに見かけた。

 今、何でオレはヨシの隣で歌っているのか改めて考えると全く違う答えが出てそう
な気がした。

 

 そんなに遠くない未来に大学を卒業して、それでもボクは六畳一間と二畳ほどの
キッチン、ユニットバスの嘘でも広いと言えない所に住んでいるけど、見ていく世界
はスゴク広くて何か

大きなものを手にして、沢山の笑顔に出会っていて欲しい。

 そう願いながら晴れた夜空を背中にして、鼻歌を歌い夢なんかを描きながら俺の少
しだけ広い部屋へ向った。



 
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